2014年11月28日

マメになった少年(5)

運動はできなかったが、勉強はできた。
岳郎≪たけお≫には、物語でも図鑑でもとにかく、一度読んだ本の内容を、概ね記憶できるという特技があった。だから読んだら読んだだけ、知識が蓄積されていく。そんな岳郎にとって、小学校低学年の勉強など、何の苦労も感じなかった。
だが岳郎は決して、頭が良いわけではない。賢いわけではない。ただ「知っている」だけだ。本で読んだ知識を、そのまま出力しているだけで、そこに思考は伴っていない。実際、彼は他の教科に比べ算数が苦手だった。できないわけではない。計算方法や解き方は知っている。知っているが、いざ自分で解こうと問題に取り組むと、時間がかかったり計算ミスをしたり、そういう場面に出くわした。その後彼のこの知識偏重は、徐々に彼の学力に行き詰まりをもたらすことになるが、それはもう少し先の話だ。
今はまだ、彼には生まれて初めて味わう優越感しかない。不思議なもので、劣等感が強い人間ほど、少しの優越感で簡単に他人を見下す。コンプレックスとは得てしてそういうものだが、岳郎もそれに漏れず、自分の学力を鼻にかけ、それと同時に輪をかけてスポーツを無価値と断ずるようになっていった。
おれは勉強ができるから運動は必要ない。
むしろ運動はバカのやるものだ。頭の良い人間に、スポーツは必要ない。
そんなメガネが誰でも陥る非生産的で無個性な思想を、岳郎はまるで、自分にだけ与えられた神からの天啓のように、自らの信条としていたのだ。(続)

posted by 淺越岳人 at 00:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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